経営とバスケ【サンロッカーズ渋谷 伊佐HC特別対談・前編】


経営とバスケ、短時間で最大限のパフォーマンスを発揮するチーム作りに共通する最も大切な”視点”とは


【サンロッカーズ渋谷 伊佐HC特別対談・前編】

プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」に所属するサンロッカーズ渋谷。主力だったロバート・サクレ選手の引退後、チームは大きく方向性を変化し、2020年1月には5年ぶりの天皇杯優勝を成し遂げました。東地区5位につけ、2021年5月に4シーズンぶりにチャンピオンシップに進出するなど、目覚ましい躍進を遂げています。

その背景には、チームを率いる伊佐ヘッドコーチ(以下、HC)が掲げた、機動力、オフェンスリバウンド、タイムシェアによる、「みんなで戦う」バスケのあり方と、「セオリーを覆す」考え方がありました。

今回、伊佐ヘッドコーチをお招きして、「経営とバスケの共通点」をテーマに当社代表の星川と対談を行いました。前編では、インターナショナルかつ、短時間でハイパフォーマンスを上げるプロフェッショナル集団という共通点もありながら、メンバーのパフォーマンスの引き出し方や目指す世界観などを伺い、スポーツにもビジネスにも活きる”視点”を見い出します。

(本対談は、2021年4月に行いました)

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短時間で集中して働き、個の力とチームの力をハイブリッドさせて、勝つ

ーー 先日(1/30/2021)は首位の宇都宮ブレックス相手に、手に汗握る接戦を制して勝利した姿に感動しました。伊佐HCとしても、印象的な試合だったのではないでしょうか。

伊佐HC:あの試合はどうしても勝ちたい大事なゲームでした。その前の川崎ブレイブサンダース戦に負けていて、宇都宮ブレックスの試合を落としたら今シーズンを勝ち抜くために描いていた構想が崩れる危機感を抱いていたからです。最後まで点差が離れないクロスゲームでしたが、選手があきらめずに戦い抜き、勝利できたことで、私自身にとっても記憶に残るゲームになりました。

ーー 当日の試合は、選手が最後まで集中力を切らさず、ハードワークを続けていました。何か工夫や戦略があったのでしょうか。

伊佐HC:私たちは1試合40分の時間内で、攻防ともにフルコートでプレーするハードワークなスタイルを取り入れており、それに伴い選手交代を積極的に行う「タイムシェア」という戦略を用いています。終始プレーのインテンシティ(強度)を落とさない戦い方なので、選手の体力消耗も激しく、1人が5分以上プレーせずにすぐに交代するのが特徴です。

しかし、大事な宇都宮ブレックス戦では、主力を35分以上プレーさせました。そのため、途中で1対1のマンツーマンディフェンスから、みんなでエリアを守るゾーンディフェンスに切り替えてコートにいながら休ませることや、反則でファウルアウトしないように最初に伝え、今日は何がなんでも勝つんだという気持ちで望みました。

ーー 「タイムシェア」はサンロッカーズ渋谷のプレースタイルの特徴となっています。特に主力であったロバート・サクレ選手の引退後、大きくチームの方向性を変化させ、2020年1月には5年ぶりの天皇杯優勝に導きましたね。

伊佐HC:ロバート・サクレ選手の引退は、チームの大きな転換期にはなりましたね。私の戦略は、チーム全体で戦うバスケットです。その戦術にあった選手が入団してくれました。

戦術に合った選手とは具体的に、身長は2m前後くらいで、オフェンスでは走れること、ディフェンスではプレッシャーを相手にかけ続けられることなど、とにかく足を動かせるアクティブな選手です。チャールズ・ジャクソンやライアン・ケリー、今季から加入したジェームズ・マイケル・マカドゥなどの選手は戦術にマッチした選手でした。

ーー それぞれの選手が短い時間でハードワークしていくスタイルですね。その点、星川社長にも伺いたいのですが、この「短時間で集中して働く」スタイルなど、クラウドキャスト社の働き方にも通じるところがあるのですか。

星川:そうですね。まず私たちの会社と共通する点として、世界中から良い人材を集めて、日本人と一緒にいかに良いチームを作りあげるかという視点があります。

その上で、エンジニアやデザイナーなどクリエイティブな職種は、働く時間が長ければ長いほど良い仕事をするわけではありません。クリエイティブな能力をいかに発揮させる環境を作れるかがマネジメントの大きな役割だと思っています。

従業員の個の力とチームの力をハイブリッドに掛け合わせて市場で勝っていくためには時間の”長さ”ではなく”質”が大事であり、その点は会社経営もプロスポーツから学べることがたくさんあるなと感じます。

トップの役割は、チームを俯瞰し、適材適所で戦う環境をつくること

伊佐HC:星川社長の話を聞いて、私のチームに置き換えると、一人ひとりの選手がアグレッシブに動ける環境をいかに作るかを大事にしている点は一緒だと思いました。選手は誰でもボールを持ったらシュートを打ちたいという気持ちはありますが、そこには向き不向きがあるため、役割分担した上で、自分の得意なところで全力を発揮してもらっています。

星川:適材適所はすごく重要です。会社組織でも、経営者は目的を達成するために、強みを持つ人にそのスキルが活かせる仕事を任せたり、現場の人材で足りない部分はどこかなと俯瞰した目で見て採用を行っています。

また、コロナ禍になってリモートワークが中心になりましたが、ものづくりにおいては最初のプランニングの部分はみんながオフィスに集まって話し合った方が、早くいいアイデアが浮かぶこともあります。そして、一気に話をまとめ、その後はリーダーが適材適所で仕事を振り分けて各自集中して作業に入ります。ソフトウェアにおけるものづくりの世界は、チームで進める時と、個人で集中する時と、フェーズによって環境の作り方も違ってきます。

しかも、私たちのような小さい会社において十数人の少数精鋭で作ったソフトウェアが、大企業が数千人かけて作るものよりも良いものを生み出すこともソフトウェアの世界ではよくあることです。尚更、個人のパフォーマンスを最大化できる環境づくりは重要です。

「試合に負ければ全て私の責任」

信用して任せることで、当事者意識が生まれる

ーー まさに少人数で集中できる環境を作るかという話ですが、伊佐HCはチーム作りという点で意識されている点はありますか。

伊佐HC:私たちは選手やスタッフ、マネージャーと全員合わせて20人程のチームで、あえて各々に仕事を任せて、責任感が生まれる環境を作っています。そして、「信用しているので思いっきりやってくれ」と伝えています。試合に負ければ全て私の責任ということも明確にした上で。

そうすると、選手もやることに対して腹落ちし、練習以外の自主練などでもハードワークしてくれているのかなと思っています。

星川:私も経営者として、最終的な責任をとることは意識しています。現在の組織は、40-50人程で従業員数が急激に増えたため、クオリティの高い仕事をするタレント人材も多くいます。そのため、マネジメント層の充実もチーム作りの上では大事なポイントで、マネージャーが指示するというよりは、みんなが主体的に動き機能する仕組み作りも必要です。

ダイバーシティのあるチームに大切なのは、共通ゴールとビジョン

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ーー クラウドキャスト社は多国籍のスタッフが多く働いています。そういったグローバルチームが一体感を持つために工夫されていることはありますか?

星川:新型コロナによる入国制限がかかる以前は、会社がビザの手配をサポートし、世界中から優秀な人を集めていました。大事にしているのは共通の「ゴール設定」です。

プロスポーツだと優勝することや試合に勝つことなど、ゴールが明確かもしれません。会社運営も従業員が同じ方向を向くために目指すゴールをわかりやすく表現し、繰り返し伝えることを意識しています。

私自身は、独立する前に外資系企業に在籍していたので、日本や海外に関わらず、良いものを作りたいというビジョンのもとに組織のカルチャーが作られ、いろいろな国からメンバーが集まって一緒に仕事をする環境を体感していました。そして共通言語の英語を使い、プログラミング言語など世界共通のフレームワークを使っていた点などは、ある程度世界共通のルールや言語などがあるスポーツの世界と似ているかもしれません。

ーー ビジョンを持ったチームといえば、サンロッカーズ渋谷の組織としての強さは、「結 -FIGHT AS ONE-」と言うスローガンにも表現されていると思います。このスローガンが制定された背景を教えて下さい。

伊佐HC:『結』は2019-20シーズンに作ったもので、今年も同じです。バスケットをチーム全体でやりたいという想いやスタイルを反映しているのですが、このチームスローガンになった背景は、私が沖縄の人間だからです。

沖縄には”ゆいまーる”という言葉があります。近所の畑をみんなで耕し、次は隣の人の畑を耕す、助け合う精神=ゆい(結い)+まーる(順番)から発想を得ました。アメリカ人のカイル・ベイリーアシスタントコーチにそのニュアンスを説明したところ、英語も加えて「結 -FIGHT AS ONE-」という言葉になりました。

ーー バストケットボールにおいて、スローガンやビジョンを共有することでチームに生まれるものとはどんなことですか。

伊佐HC:私たちの最終ゴールは優勝することです。そのためにはチャンピオンシップに出られるように、日々の試合に勝たないといけない。そのために試合時間の40分を全員でタイムシェアしていく戦術があります。1試合で5分や10分しか出ない選手もいますが、できる限り自分のやれることをやっていこうと、選手には言っています。選手一人ひとりが最終ゴールのビジョンから逆算して、自分の役割をしっかりやり抜けば、どこにでも勝てるし、それがチームの力にもなります。

ーー クラウドキャスト社も「POWER TO THE CROWDS」というミッションを掲げています。その言葉が生まれた背景を教えてください。

星川:私たちはテクノロジーやデザインという手段を使って、何を目的にして、何を変えたいかと考えた際に、「人が本来やるべきことやクリエイティブなことに時間をかけられるよう働き方の課題を解決し、便利にすること」に行き着きました。

「POWER TO THE CROWDS」は、既存の枠組みにとらわれない、新しい発想で世界を変革する「個」を応援するという意味です。

例えば、日本の職場にはまだ紙文化が根強く残っています。特に経費精算に関わる作業などはその典型で、欧米から見ると大きな「非効率の塊」でした。そこで私たちは、経費の立替というプロセスそのものをなくしてしまおうという発想で、クラウドサービス「Staple」を提供しています。