「通勤手当」というと、毎月給与とともに支給されるのが当たり前だと思っているかもしれません。しかし新型コロナウィルスの登場で働き方がリモートワークに大きくシフトしています。
以前はオフィスまで通勤していた人も、1年以上ほとんど通勤していないという方もいるでしょう。通勤そのものが当たり前でなくなったことで、企業によってはこの通勤手当のあり方を見直す動きが出ています。
そもそも通勤手当とはなんでしょうか。たまに通勤する場合はどうなるのでしょうか。
ここでは通勤手当とは何か、交通費との違いや通勤手当の計算方法、リモートワーク時の通勤手当の扱いなどについてご紹介します。
▌通勤手当とは
戦後に登場し、高度経済成長期に定着した通勤手当
通勤手当とは、従業員の通勤に必要な費用のすべて、または一部を手当として支払うものです。勘定科目としては「通勤費」となり、現金(給与の一部)または定期券などの現物で支給されています。
通勤にかかる費用が、実費としてそのまま給与に含まれて戻ってきているイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実は通勤手当は給与所得として扱われています。つまり課税対象になっているのです。また、この通勤手当を含めた額で各種保険料が計算されています。
通勤手当に限らず「手当」と名のつくものは課税対象になっていますが、通勤費は一定額までは非課税となっています(後述)。
厚生労働省の「就労条件総合調査」によれば、給与制度の中に通勤手当が登場したのは、戦後からとのことです。都会では住宅事情の問題で遠距離通勤を余儀なくされ、通勤費の負担が増加したという背景があります。
その後、高度経済成長期には労働力の確保のためという事情も加わり、今日においては多くの企業が通勤手当を支給しており、従業員にとっても欠かせない手当になっています。
企業は従業員に通勤手当を支払う義務がある?
もらって当たり前に思える通勤手当ですが、実は法律的には事業者側に通勤手当の支払い義務はありません。労働基準法によって規定されておらず、会社の就業規則や給与規定などの賃金規定によって定められている場合に限り、支払い義務が発生しています。
厚生労働省の「労働条件総合調査」によれば、92.3%の企業が社員に通勤手当を支払っています(2019年11月時点)。平成22年の「就労条件総合調査」では、30人以上の企業の91.6%で支給されており、平成11年は86.6%、平成17年は91.3%。これらを踏まえると、支給率は年々上昇していることがわかります。
通勤手当のメリット
90%以上の企業が通勤手当を支給しているのは、支給することで社員の負担が減り、働きやすい会社作りができる、優秀な人材を集めやすくなるといったメリットがあるためです。
通勤手当がない場合、従業員側はできるだけ通勤費の負担を減らそうと、無茶な移動手段を選択する可能性もあります。その結果事故にあう危険性も考えると、適切な移動手段に対する通勤手当の支給は、従業員の安全を確保する意味でも有効といえるでしょう。
▌通勤手当と交通費の違い
通勤手当と混同しやすいものに交通費があります。
通勤手当は自宅と仕事場の往復であるのに対し、交通費とは、電車、バス、タクシー、飛行機などを使って客先へ移動する際かかった費用や、出張費など、通勤以外に発生した仕事のための移動費用のことです。
通勤手当が課税対象(上限あり)であるのに対し、交通費は非課税で、従業員が一旦建て替えたのち、後日交通費精算をして実費精算されるのが一般的です。勘定科目では「旅費交通費」「出張旅費」として処理されます。
▌通勤手当の課税ルールと非課税限度額
通勤手当は、たくさんもらえるほど収入が増えたような感覚になるかもしれません。しかし、通勤手当は賃金の一部として見なされるため、課税対象となっています。1か月当たりの非課税額が儲けられており、どのような手段で通勤するかによって非課税額が変わります。
電車やバスなどの公共交通機関を利用している場合は、1か月あたりの最大限度額が15万円なので、よほどのことがない限りは、課税を意識する必要はありません。
注意したいのは自家用車や自転車に対して通勤手当を支給されているケースです。通勤手当の支給額に法的な決まりはないため計算方法は任意ですが(後述)、法律で距離に応じて1か月当たりの非課税額の上限が決まっています。
もし片道2km以上10km未満の距離から自家用車で通勤しており、毎月1万円を支給されている場合、4,200円までは非課税ですが、残りの5,800円は課税対象になっているということを知っておきましょう。
▌通勤手当の計算方法
公共交通機関を利用した定期券の場合は、距離と期間によって自動的に金額が決まってきます。しかし、自家用車を使った通勤の場合の計算方法は悩むところでしょう。
そもそも通勤手当自体に支給義務がありません。そのため、どのように決めるかも会社の就業規則や賃金に関する規定によって異なっています。
自家用車における通勤手当の計算方法
新型コロナウイルスの影響で、密になりやすい公共交通機関の利用を避けて、自家用車通勤を選択するケースもあります。
計算方法には往復の通勤距離とガソリン単価を使った計算方法と、距離による計算方法の2種類が考えられます。
1.ガソリン単価と燃費で計算する場合
2.通勤距離で計算する場合
ガソリン代や燃費は状況によって変わることもあります。特に2020年以降、レギュラー実売価格は値上がりの一途をたどっています。そこで非課税限度額も考慮しつつ、距離による計算を採用するほうが主流となっているようです。
公共交通機関(電車・バス)における通勤手当の計算方法
公共交通機関のみを利用する場合は、1か月、3か月、6か月の通勤定期券の相当額を支給するのが一般的です。期間が長くなるほど金額は下がりますが、どの期間で支給するかは会社の規定次第です。
1か月当たり15万円を超える場合には、15万円までが非課税限度額となります。
自転車や徒歩出社における通勤手当の計算方法
自転車や徒歩で通勤する場合の通勤手当については、各社の賃金に関する規定にゆだねられます。通勤距離や移動経路を固定するのが難しいことや、徒歩や自転車で移動しやすそうな2km未満の場合、全額課税対象になるため、支払いの対象にする企業は多くないようです。
支給する場合は「○km以上の場合に限る」など、条件を就業規則で決めておくほうがいいでしょう。
タクシー出社における通勤手当の計算方法
タクシーで出社する場合は、実費相当額を支給することが多いようです。
▌リモートワーク時の通勤手当の扱いと在宅勤務手当の登場
リモートワークでほとんど通勤しなくなった、という場合、通勤手当はどうなるのでしょうか。
これは会社の就業規則、または賃金規定にどのように定義されているか次第となります。
実費として払うと規定している場合、リモートワークで通勤していない場合は支払う必要はありません。しかし、通勤手当を一律で支給するとしている場合や、定期代として1ヵ月分など支給方法が特定されている場合は、出社の回数に限らず支給する必要があります。
現在の流れとして、以下の3つのパターンがあるようです。
通勤費は発生しないものの、仕事場を自宅等にすることでインターネット接続環境を含め、仕事環境を整備しなくてはならないケースもあります。それを補助するものが在宅勤務手当です。
人事院による令和3年「職種別民間給与実態調査」の結果によれば、在宅勤務を実施している事業所のうち、在宅勤務手当を支給しているのは23.1%、支給しないとしているのは76.9%とまだまだ多くはありません。ただし、現在は支給しないとしている事業所の中でも、19.9%が在宅勤務手当の支給を検討しているとしています。
今後は在宅勤務手当の事例が増えるにつれて、横並びになる企業が増えていくことは十分考えられます。賃金規定が現状に見合わない場合は、規定を変更する必要があるかもしれません。
▌まとめ
戦後から従業員の通勤負担を減らす目的で支給が始まった通勤手当。実は法的に義務づけられたものではありません。どのような条件で支払われるかは、就業規定や賃金規定次第となっています。
通勤手当は給与の一部として扱われるため課税対象ですが、条件により一定額までは非課税となっているのもポイントでした。もう1点、給与の一部なので通勤手当が高くなるほど、その分社会保険料などが上がることも知っておくといいでしょう。
なお、不正受給した場合は、過去10年間遡って返還を求められるのでくれぐれも注意したいところです。引っ越しなどで通勤ルートが変わったり、会社に近くなった場合は忘れずに申告しましょう。
これからさらに加速するであろうリモートワークにおける通勤手当の扱いは、今後注目されるポイントです。在宅勤務手当は増えていくと考えられる手当ですが、これから法人として起業し、従業員を雇用する予定がある方は、時代の変化に柔軟な対応ができる就業規定にしておくといいでしょう。
▌クラウドキャストでは「リモートワーク手当」と「コーヒー予算」を導入済み
クラウドキャストでもリモートワークを導入しています。
クラウドキャストでは通勤に要した交通費を実費で精算しているほか、リモートワーク手当・環境整備予算を設けており、さらにリモートワークにおける飲み物や軽食の購入費を補助する「コーヒー予算」も設けています。
「コーヒー予算」では、クラウド型の経費精算システム「Staple(ステイプル)」と「Stapleカード」を利用しています。StapleカードはVISAカードとして利用できるプリペイドカードです。1枚から発行できるため、すべての従業員に「Stapleカード」を配布。毎月1日にこの「Stapleカード」に1,000円~3,000円チャージされ、VISAカードに対応しているカフェやコンビニ等での決済で使えるようになっています。
Stapleカードを決済で利用すると、「Staple(ステイプル)」にデータが連携されるため、経費精算の手間もほとんどかかりません。
「Stapleカード」はどこで利用したかは明確に分かる仕組みなので、「コーヒー予算」を本来の目的と異なる利用を防げるほか、翌月への繰り越しもできません。
「Staple(ステイプル)」があれば、福利厚生の一環として自社にあった独自のリモートワーク手当を作ることができ、柔軟な精算や決済が可能になります。
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