個人事業主とは?フリーランスや法人との違い、個人事業主になるメリット・デメリットを解説
1つの会社に就職したら一生同じ会社にいるという時代はすでに終わり、可能性を求めて転職するのは当たり前の時代になっています。
さらに現在では新型コロナウイルスの影響で、リモートワークも当たり前になるなど、働き方の変化は著しいものがあります。通勤・対面でなければ仕事ができない職業についている方は、新たな収入源の必要性を強く感じたのではないでしょうか。
ここで思い浮かぶのは、自分で事業を始めるという道、いわゆる起業です。
起業には大きく分けて2つあります。
株式会社、合同会社といった法人を設立する方法と、法人を設立せずに個人事業主として事業を始めるパターンです。株式会社の設立については「法人として起業したい! 会社を作るにはどうしたらいい? 会社設立の流れと手順を解説」で解説しました。
では自分のビジネスを始めるのに、法人設立と個人事業主、どちらがいいのでしょうか。実は、すべての人が自分のビジネスを始めるために法人化する必要はありません。
ここでは個人事業主について、個人事業主のメリット、デメリット、開業手続きについてご紹介します。
個人事業主とは?フリーランスと同じ?
個人事業主と法人(株式会社や合同会社) のどちらで事業を始めるかは、社会的信用、税金面、社会保険や税務上の手続きや給与などの経理面、設立までの手続き、資金の有無などを踏まえ判断する必要があります。
起業したいけれどまだ開業資金はないし、考えている事業が成功するかどうかもわからない。だからとりあえずできるだけ低コストで始めたい。しばらくは会社員を続けながら副業をして、ビジネスが軌道に乗ってきたら独立しようかと考えている・・・・・・こんなときにおすすめなのが「個人事業主」。
ではそもそも個人事業主とはなんでしょうか。
個人事業主とは、継続的に事業を行う個人として税務署に個人事業主の「開業届」を提出している人のことをいいます。個人事業主になることで、確定申告を「青色申告」で行えるようになります(別途申請が必要)。
基本的に、反復・継続・独立して事業を営む場合は開業届の提出が必要です。開業届を提出しなくても罰則はありませんが、社会的信用が得られないばかりか、脱税目的と疑われる怖れもあるので注意が必要です。
似たような言葉に「フリーランス」があります。同じ意味合いで使われているケースもありますが、個人事業主=フリーランス ではありません。
フリーランスとは、働き方の違いを表す言葉で、会社(法人)や団体組織と雇用契約を結ばず仕事を行っている人のことを指します。どこにも属さず働いている人はフリーランス、会社に所属して働いている人は会社員やサラリーマンと呼ばれています。
一方で個人事業主は、税法上の区分を表す言葉です。個人事業主の働き方としては、どこにも所属していないフリーランスの場合もあれば、会社員が副業で個人事業主になっているケースもあります。
なお、フリーランスでも法人化している場合は、会社設立の届け出をしているため、個人事業主には含まれません。あくまでも“個人事業主として開業届を税務署に提出している人”が個人事業主です。
ちなみに、似たような言葉に「自営業」があります。これは自ら事業を営んでいる人のことを指すもので、個人事業主や規模にかかわらず自分で会社を設立して事業をしている人の両方を含んでいます。
個人事業主と法人の違いとは
株式会社の設立に比べて、個人事業主は開業の手続きが非常に簡単で、時間も費用がかかりません。さらに法人と違って税務申告が簡単で、利益が少ないときは税負担も少ないので、事業をスタートしやすいというのが大きな特徴です。
個人事業主になるのにお金がかからない
仮に株式会社を設立しようとすると、資本金に加えて、手続きに約24万円ほど必要となります。資本金は1円でも設立可能ですが、社会的信用のためには概ね100万円用意されているようです。
個人事業主の場合、設立に費用はかかりません。手続きの手数料も不要で、専門家に依頼せずとも自分で書類を作成できます。
開業が簡単
株式会社を立ち上げようとすると、会社の基礎を決定する、法人の印鑑を作る、定款を作成して公証役場で認めてもらう、資本金の払い込みと払込証明書を作成する、法務局で申請書類の登記申請を行うなど、設立前から計画的な準備が必要です。
一方、個人事業主になるために必要な基本的な書類は、開始日から1か月以内に税務署に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)と、都道府県税事務所に提出する個人事業開始申告書(事業開始等申告書)の2つだけです。
税務申告を自分でやりやすい
法人の場合は税務関連の手続きは税理士など専門家に任せる必要があります。
個人事業主は所得税の税務申告(白色申告、または青色申告)を自分で行うことができます。帳簿作成に関する知識がなくても確定申告用のアプリが豊富で、クラウドサービスもあります。
個人事業主の税金は売上げ次第
個人事業主と法人では税金の仕組みも異なります。
個人事業主は「累進課税」のため、所得が増えれば税率も上がります。赤字のときは税金は発生しませんが、ビジネスが成功し利益が大幅に増えた場合、最大で所得税・住民税ともに50%を超えます。
一方、法人は法人税、法人住民税は30%前後です。ただし、赤字でも最低7万円の税金は発生します。
なお消費税に関しては、個人事業主は課税売上が1,000万円以下なら免税事業者となり、消費税の支払い義務はありません。
個人事業主のメリット
実際に個人事業主になると、どんなメリットがあるのか見てみましょう。
コストをかけずに小さくスタートできる
必要な書類を提出するだけで開業できるので、準備資金がなくてもすぐに看板を掲げることができます。
会社が副業を許可している場合は、給与所得があるうちにやりたい事業を始められるので、リスクや失敗を恐れずに挑戦することができます。
屋号付きの銀行口座を開設できる
個人事業主は屋号付きの銀行口座を開設できます。個人の口座でも取引は可能ですが、事業用なのか個人用なのかがわかりにくくなります。屋号の入った銀行口座があれば、しっかり事業を展開しているという意味で、取引上の信用を得やすくなります。
事業用の給付金を受け取れる
コロナ禍においては個人事業主も対象としたさまざまな給付金が用意されており、条件次第では受給することもできます。
労働を証明しやすい
フリーランスで在宅ワークをしていると、一見何をしているのかわからないなど、勤務実態を証明することが難しくなります。しかし開業届の控えがあれば、働いていることを証明できるようになるため、保育園等の申し込み時に便利です。
青色申告なら税務面で特典がある
開業時に確定申告を青色申告することで、最大65万円の控除がうけられるようになるため節税になります。
青色申告なら赤字でも3年間繰り越せますし、会社員が副業として開業届を出して青色申告をする場合は、給与所得控除と青色申告特別控除の両方を受けることができるほか、事業が赤字になった年は、その年の給与所得と相殺して税金を計算できるというメリットがあります。家族への給与も経費として計上できます。
個人事業主のデメリット
すべて自分で行う
会社では役割に応じて業務が分担されていますが、個人事業主になると、見積書の作成、請求書の作成、入金確認、支払い、帳簿作成、確定申告、営業、顧客対応、名刺作成などの業務をすべて一人で行うことになります。
青色申告の特別控除を利用するためには複式簿記で帳簿を作成し、確定申告時に「貸借対照表」と「損益計算書」を作成する必要があります。そのため経理面での負担は避けられません。
所得が増えると税率が上がる
個人事業主の事業所得に対する所得税の税率は、稼げば稼ぐほど税率が上がる累進課税です。分離課税に対するものなどを除くと、以下のように税率が5パーセントから45パーセントの7段階に分けられています。
(国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
法人の場合は法人税で、会社の規模によって税率が決められています。たとえば資本金が1億円以下の中小法人の場合、年間所得が800万円以下なら法人税率は15%、800万円を超えると約23%になります。しかし、個人事業主の場合は800万円で税率が23%かかります。
健康保険年金面で負担が増える
会社が費用を負担してくれる会社員に比べて、個人事業主は健康保険年金の面で不利になります。
個人事業主の健康保険は国民健康保険となり、保険料は全額自己負担になります。扶養家族がいる場合は人数分必要です。また通院時の支払い金額も上がります。
会社員は厚生年金を、個人事業主は国民年金を収めますが、会社員は厚生年金と国民年金の両方を受け取れるのに対して、個人事業主は国民年金しか受け取れないため、将来的に受給額が下がります。そのため独自の対策が必要になります。
また、副業で個人事業主になっている場合、失業しても別に事業をしていることで失業したと見なされないため、失業保険を受け取れません。個人事業主も廃業届を提出すれば失業状態となります。しかし、もともと個人事業主には雇用保険がないため、廃業しても給付金はもらえません。
個人事業主になる前にしておくといいこと
個人事業主として開業しようと決めたら、届け出を提出する前に以下のことをやっておきましょう。
何を事業とするか考えておく
個人事業主になるために事業計画書は不要ですが、どんな仕事をしていくかを明確にしておくことは大切です。
事業として反復・継続できるかどうかわからないと思われるかもしれませんが、メインの事業が変わっても問題ありません。最初は「雑所得」で確定申告し、事業として継続できると判断した時点で「事業所得」として確定申告することもできます。
屋号を決めておく
「屋号」とは、個人事業主が開業する際につける名前のことです。なくても問題ありませんが、あれば個人と区別しやすくなって便利です。個人事業主が銀行に事業用の口座を作るときは、口座名称が屋号+個人名になります。
<屋号を考えるときのポイント>
屋号を考えるときは、他人の商標権を侵害しないこと、周囲と区別しやすいこと、読みやすさ、おぼえやすさ、いいやすさを考慮しましょう。あまり長すぎると印鑑を作成するときに困るかもしれません。すでに使われている屋号を使うこともできます。ただし商標登記されていないか最寄りの法務局で確認したほうがいいでしょう。
事業内容にあわせた屋号もいいですが、将来事業を拡大した際イメージとあわなくなる可能性もあります。将来的に法人化も考えているなら、そのときのことも考えておくといいでしょう。こだわりたいときは画数なども調べておきましょう。
なお、屋号は変更することもできます。変更したいときは特に手続きは不要。確定申告時に屋号の欄に書いておくだけです。
クレジットカードや住宅ローンなどの契約を済ませておく
事前にクレジットカードを作っておきましょう。カード会社によっては審査が厳しく、個人ではクレジットカードが作れなくなることがあるためです。
個人のクレジットカードのほかに事業用としてもう1枚用意すると、用途が分けられるため確定申告の際に便利です。
ローンの契約が必要なことは会社員のときに済ませておくことをお勧めします。なぜなら会社員のときのほうが収入が安定しており審査が通りやすいためです。
個人事業主になるための手続き
個人事業主になるためには、届け出をするだけです。税務署に開業届を提出する際には、印鑑とマイナンバーカードまたはマイナンバーが確認できる書類と身元確認書類を持参します。
このほか、従業員を雇用して給与を支払う場合は「給与支払事業所等の開設・移転・廃止届出書」と「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を、家族従業員がいる場合は「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」を税務署に提出します。
▌まとめ
最近では、時代が大きく変わり個人が好きなことで稼ぐ時代になった、とも言われるようになりました。自分にも社会に提供できるものがあるのではないか、昔やりたかったことに挑戦してみたい、と可能性を模索し始めている方も増えていることでしょう。
いきなり法人化はハードルが高いので、まずは手応えを確認する意味でも個人でできる範囲からビジネスを始めたい。自分のペースで働きながら、自由な生き方をしてみたい。そんな方には個人事業主からのスタートがおすすめです。
そして、最終的に法人化を目指したいという方には、クラウド型の経費精算サービス「Staple(ステイプル)」をぜひチェックしておいてください。
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