「経費の立替業務そのものを無くすことで、大切な時間を生み出したい。」Stapleが目指す”法人キャッシュレスの世界”(前編)
企業にとって日常業務である経費精算業務は、紙やExcelで従業員から上がってきた申請を月末に経理担当が処理をするという、非常に非効率かつ負担が大きいものでした。近年はこうした経費精算の効率化サービスが数多くリリースされ、費用対効果を踏まえて導入を検討される企業も増えてきています。
しかし、そもそも「経費精算」という業務自体に疑問を持っている方は少ないのではないでしょうか。クラウドキャストが提供する「Staple」の原点は、代表・星川が前職で「ひとりの従業員」として働いていた頃に感じた経費精算のわずらわしさであり、今でこそ当たり前の慣習となっている「従業員個人による一時的立て替え」に対する疑問を追求した結果にありました。
インタビュー前編では、経費の立替業務そのものに対する疑問から、法人プリペイドカードと経費精算サービスを一体化させるという全く新しいアプローチに至った背景を弊社代表・星川に聞きました。
(後編はこちら)

(クラウドキャスト代表取締役 星川高志)
海外出張が多かった従業員時代、レシートは財布の中にパンパン、糊付け提出が「憂鬱」だった
ーー マイクロソフト社員時代に感じていた「わずらわしさ」や、経費精算に対する疑問というのは、具体的にはどのようなものだったのでしょうか。
当時、在籍していたマイクロソフトでは、海外出張が非常に多い会社でした。毎年5回以上は米国本社に行っていたでしょうか。その際に、米国の働き方に触れたことで、帰国してから少し憂鬱に思うことが続いてました。
理由は、日本の経費精算作業が非効率だったこと。今でこそマイクロソフト社内にてDX化は進んでいると思いますが、当時は紙とExcelを使った仕事が多く存在しました。例えば経費で購入した備品代や、会食で使った交際費などのレシートでパンパンになった財布から、経費申請の際に1つひとつ取り出して紙に糊できれいに貼り付けていました。国内での移動も多かったので、交通費の申請も毎月ものすごい量があり、乗り換え案内サービスのWebページからコピー&ペーストしてExcelにまとめて提出するのも一苦労でした。
疑問を持たないメンバーに一喝した外国人上司
デジタル化が進んだ米国の働き方を体感した後だからこそ、本当にわずらわしい作業でしたが、当時は疑問を持っていたかと言えば、実はそうではありませんでした。当時レポートしていた米国の上司から「何で日本ではそんな非効率なことをやっているんだ」と一喝されました(笑)。
このように、たまたまグローバルな環境にいたことで気づくことができましたが、大半の日本人はわずらわしい作業でも真面目に対応しているかと思います。経営者からしたら、従業員や管理者、経理の方々も含め、もっと優先度が高い業務に時間を使ってほしいと思います。
従業員のUI/UXが配慮されていなかった「業務アプリの常識」を変えたかった
ーー この疑問から着想を得て、2014年に生まれたのが「Staple」だと思います。当時はまだ、こうしたサービスは珍しかったのでしょうか。
はい。弊社は2011年国内会計ソフトで有名な弥生が主催した「アプリコンテスト」でグランプリを受賞させて頂きました。弥生会計のクラウドサービスが本格的に出てきたタイミングだったので、これらと補完関係になるような会計業務支援アプリをまずは作りました。同時に、企業の従業員視点に立った業務アプリが必要だと感じたことから、経費精算サービスの機能を追加、その後再度スクラッチから開発し、「Staple」にブランドを変えて、今に至ります。
経費精算においては、数人のバックオフィス、すなわち管理側に最適化されていたのがこれまでの業務アプリの常識でしたが、「300人の会社なら、バックオフィスの5名だけでなく、295人の従業員も楽になるツールを作る」という従業員ファーストというコンセプトで作り上げました。その結果、2017年に「グッドデザイン賞」を受賞しました。

アプリのダウンロード数はかなりありましたが、当時のサービスと今ではだいぶ違いがあります。例えば、当初はサービスの対象セグメントが従業員数名から数十名の企業向けだったのが、今は従業員数100〜300名規模の企業を中心に、1000名以上の大企業にも対応できるようになりました。デザインも洗練させて、スマホファーストなアプリに仕上げています。
「経費の個人立て替え」が非効率の根源と気づき、行き着いたのは「法人プリペイド一体型経費精算サービス」
ーー そして5年後の2019年には、法人プリペイド一体型経費精算サービスとしての「Staple」へと進化しました。この構想はいつからあったのでしょうか。
構想は2016年くらいからありました。当時、経費精算の一連のワークフローにおいて「何が非効率の根源なんだろう」と考え、従業員個人が経費や交通費を一時的に立て替えている本質的な問題に行き着きました。
法人クレジットカードも解決策の1つとしてありますが、会社として導入する際に必ずカード会社にて与信審査を実施する必要があり、アルバイトや契約社員等も含めたすべての従業員に使ってもらうにはハードルが高い。そこで、あらかじめ必要な分だけお金をチャージ・入金して決済してもらい、いつでもお金を引き揚げられるプリペイドのシステムが使えれば与信問題を解決できると思いました。そうすれば従業員個人の一時的立て替え自体も無くすことができると考え、法人向けにプリペイド一体型経費精算サービス「Stapleカード」の開発を進めることになりました。

ーー 「Stapleカード」も中小企業の利用を想定していたのでしょうか。
最初は中小企業に使っていただくことをイメージしていましたが、サービスのリリースに際して、毎週のようにセミナーを開催してました。すると、中堅規模以上の企業の担当者が多く来場することに気づきました。その方々の声を聞いていると、すでに法人クレジットカードは入れてみたけど使うのは役員クラスの人だけに留めているようでした。クレジットの場合、支払い後のデータが反映されるまでタイムラグがあり、不正が見つかるまで2~3週間かかるなど、ガバナンス上の課題を感じていることが浮き彫りに。ニーズとしては中堅から大手企業にも確実にあることが分かったので、私たちとしても、これは時間やリソースをかけてでも解決すべき課題だなと感じました。
”利便性”だけでない「社員を信頼してくれている」という声も
ーー 企業ガバナンスの問題からも、法人クレジットカードではなく、プリペイドなんですね。
そうです。プリペイド式なら事前に承認フローがあり、例えば従業員が明日10万円が必要だとわかったら、その目的に応じて管理者側でチャージし、使ったらリアルタイムにデータでわかるので、不正に使われてもすぐに分かります。

また、発表に先駆けた実証実験では、正社員からアルバイトに至るまで弊社で「Stapleカード」を配布したところ、渡された従業員は、自分が信頼されているんだという実感を得たという声が上がりました。Stapleカードを活用することで従業員のロイヤリティーも上がるという発見がありました。
ーー「生産性向上」や「コスト削減」を謳う経費精算効率化ツールは、日本の「働き方改革」の時流の中で非常に多くの企業が参入してきた領域といえます。そのなかで、「Staple」として差別化している部分を教えて下さい。
「Staple」が大事にしている価値観は、人が主役のサービスにであるということです。経費を申請する側の99%の人たちの手間をいかにとらせないか。例えば、経費精算は月末月初の忙しい時に集中して行っている企業が多くあります。そのために他の業務が止まってしまったり、残業が常態化してしまうこともあると思います。
「Staple」の場合、経費を支払ったらすぐにアプリで入力処理することで、作業のピークタイムを分散させることができます。結果、バックオフィスのスタッフや管理職の人も作業が楽になり、さらにはリアルタイムにお金の流れを把握できるようになります。
「Staple」という単語には2つの意味があって、1つはステイプラー (日本では通称ホッチキス) の文房具から、もう1つは「自分のスタンダード」や「定番」といった意味です。例えば、文房具屋さんに置いてあるアイテムは、人のことを考えて常に進化して使いやすくなっています。Stapleも同じく、機能やデザインにこだわって働く皆さんにとって「定番」となり、当たり前のように使えるようなサービスにしていきたいという想いを込めています。