コロナウイルスの影響で、既存の会社の勤務形態がリモートワークへとシフトしていったように、従業員側の意識にも様々な変化が生まれたのではないでしょうか。
雇用される側だった方は新しいサービスを提供するために起業したい。すでに個人事業主として仕事をしていたが事業拡大のため法人化を目指したいなど、働き方だけでなく、本当に自分のやりたかったことはなんなのかを考えるきっかけになった人も多いでしょう。
このとき、必要になるのはどのようにして会社を立ち上げるかという知識です。
一口に法人化といっても会社設立の形態としては「株式会社」と「合同会社」の2種類があります。個人で仕事をするか、それとも法人化するかは、社会的信用、税金面、社会保険や税務上の手続きや給与などの経理面、設立までの手続き、資金の有無などを踏まえ判断する必要があります。
ここでは株式会社と合同会社について、その概要と設立までの流れ、必要な費用について解説します。
株式会社と合同会社、どちらがいい?
会社を立ち上げる場合、「株式会社」と「合同会社」のどちらにするかを決めておきます。
設立の費用面(後述)で見ると合同会社のほうが安くなりますが、法人の確定申告という点では、株式会社と合同会社で税務上の違いはありません。
とはいえ、代表取締役と名乗れるのは株式会社で、合同会社の代表は「代表社員」となります。また、株式会社は将来上場できますが、合同会社は上場できないなどの違いもあります。日本ではアップルやグーグルが合同会社として有名ですが、社会的な知名度、信用度も株式会社のほうがまだまだ高いのも事実です。
合同会社で設立してから株式会社に変更することもできますが、その際は再び費用が発生するため、絶対に合同会社でなければならない理由がない場合は、株式会社にしたほうがいいとも言われます。長期的な視点からどちらにするかを考えましょう。
会社設立の流れと手順
株式会社と合同会社いずれも会社を設立するためには、以下のような手続きが必要になります。
1. 会社の基礎を決定する
まず、会社の設立を進める発起人を1名以上決めます。法人も発起人になることができます。発起人は1株以上の出資が必要となります。
その後、社名、会社の目的、事業内容、本店所在地、資本金の額、持株比率、役員構成、設立日と決算期を決めます。設立までに2〜3週間かかること、決算月は基本的には設立月の前月になることを踏まえ、逆算して準備しましょう。
1株いくらに設定したらいいのか?
1株いくらに設定するかというのは多くの方が悩むところのようです。法的な決まりはありませんので任意で設定できます。高すぎると出資のハードルが上がり、低すぎたり中途半端な金額にすると計算が煩雑になるため、一番わかりやすいということで1株1万円に設定されることが多いようです。
資本金はいくらがいいのか?
資本金をいくらにしたらいいのかというのも設立時の悩みの1つでしょう。現在の法律では1円でも会社の設立は可能になっています。しかし、資本金の額は会社の信用度にも影響するため、安易に選ぶのは考えものです。一般的には100万円、200万円とすることが多いようですが、最低でも3ヶ月分の事業運営に必要な資金を目安に、可能な範囲で決めるといいでしょう。
2. 法人の印鑑を作成する
法人用の代表者印(実印)や銀行印、角印を作成します。会社の実印は設立時の書類に必要になるため、早めに作成しておきましょう。
また、役員の印鑑証明も取得しておきます。
3. 定款の作成と認証
続いて、定款を作成して公証役場で認めてもらいます。定款には、事業目的や所在地、資本金など、組織の種類に応じて定められた基本情報や規則などが記載されており、いわば会社の説明書のようなものです。個人がゼロから作るのは難しいため、ひな形を活用して作成される場合がほとんどです。公証役場で一度認証された定款は、自由に変更できなくなります。
定款を作成する際は、電子と紙のいずれかを選択します。紙の定款は4万円の収入印紙代が発生しますが、電子定款は無料です。ただし、電子定款の手続きは非常に煩雑なため、司法書士などの専門家に頼んだほうが確実です。その場合、収入印紙代は削減できても手数料が発生します。
また、株式会社の場合、定款認証手数料が5万円かかります。合同会社は認証が不要なため、認証手数料は発生しません。
4. 資本金の払い込みと払込証明書の作成
会社のお金として、資本金を振り込みます。この時点で法人用の口座はまだありませんので、振り込み先は代表者個人の口座になります。
振り込み後、通帳の店名、口座番号、口座名義人が記載されているページ(表紙と裏表紙)のコピーをとり、確かに払い込みがあったことを証明するために「払込証明書」を作成します。なお、インターネットネットバンキングなど通帳がない口座の場合は、取引明細が分かる画面を印刷したものを用意します。
5. 申請書類の登記申請
株式会社設立登記申請書、定款、登録免許税の収入印紙貼付台紙、設立時取締役の就任承諾書、取締役の印鑑証明書、払い込みを証する書面、印鑑届書などをもって、本店所在地を管轄する法務局などに登記申請します。
登記申請を終えてようやく会社として認められます。原則として登記を申請した日が会社の設立日になりますので、こだわりたいときは予め調べておきましょう。
登記の際には登録免許税がかかります。登録免許税は資本金の1,000分の7と定められていますが、株式会社の場合、15万円に満たないときは申請件数1件につき15万円、合同会社の場合、6万円に満たないときは申請件数1件につき6万円となります。
会社設立に必要な費用とは?
これまで会社設立の主な流れと手順について解説しましたが、株式会社と合同会社では設立にかかる費用は異なります。必要な費用を整理すると以下の通りです。
会社設立した後の手続き
設立登記が完了しても、手続きや終わりではありません。法人口座の開設や社会保険、税務署の手続きがあります。期限があり、設立後5日以内に行わなければならないものもありますので注意が必要です。
法人口座の開設(設立後すぐに)
銀行に法人名義の法人口座を開設します。法人口座の開設は義務ではありませんので、個人名義の口座で取引することもできます。しかし個人名では会社のお金と個人の区別がしにくくなるため、公私混同と疑われる可能性もあるので、法人名義での開設をおすすめします。
開設には以下の書類が必要となります(金融機関によって異なる)
個人名義の口座に比べて審査に時間がかかります。また、設立後の手続き書類の中には口座振替依頼書も含まれるため、会社を設立したら速やかに手続きしましょう。
年金事務所への書類提出(設立後5日以内)
会社を設立したら、原則として社会保険に加入します。会社設立から5日以内に、会社の所在地を管轄する年金事務所に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」と、被保険者全員分の「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出します。役員や従業員に扶養家族がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」も提出します。
提出方法は郵送、窓口持参、電子申請(事前に手続きが必要)のいずれかを選べます。届け出用紙は日本年金機構のサイトからPDFをダウンロードできます。なお、手続きの際には登記簿謄本の原本(提出日から遡って90日以内に発行)が必要なので、忘れずに用意しましょう。
代表者一人で役員や従業員がいない場合でも、加入が義務づけられています。社会保険には健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険、介護保険がありますが、従業員を雇う予定がある場合は、社会保険が完備されているかどうかは選択基準の1つになります。
税務署への書類提出(設立後1ヶ月以内)
会社を設立すると納税の義務が発生します。そのため設立日(設立登記の日)から1ヵ月以内(最初の給与支払い日まで)に「給与支払事務所等の開設届出書」を、2カ月以内に会社の本店所在地を管轄する税務署に「法人設立届出書」を提出します。
届出書は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。
役場への書類提出(期限は自治体ごとに異なる)
地方税関連の手続きのため、会社の本店所在地のある自治体にも「法人設立届出書」を提出します。期限や書類は自治体ごとに異なるため、詳細は各自治体に確認します。たとえば東京都の場合は15日以内と定められています。
まとめ
会社の設立は、前後にやることが非常に多いことがわかります。特に設立後の社会保険や税務署、自治体への届け出は期限が設けられており、最短で5日以内。計画的に準備しましょう。
履歴事項全部証明書(登記簿謄本)、定款の写し、会社の実印の印鑑証明は、多くの手続きで必要になるため、手続きが完了し次第必要な分をあらかじめ用意しておくことをおすすめします。
会社設立においては上記のような各種届け出のほかに、設立後速やかに業務が円滑に進められる環境や仕組み作りも大切です。特に現在はコロナウイルスの影響もあり、従業員の働き方にも柔軟さが求められる時代です。
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<参考資料>
日本年金機構:事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/jigyosho/20141205.html
国税庁:法人設立届出書
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/tt001.pdf
国税庁:給与支払事務所等の開設届出書
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/2801h009.pdf